「音による思想家」高橋悠治

  高橋悠治(1938- )は現代の日本を代表する音楽家のひとりであると同時に、“音による思想家”とすら形容したくなる独自のスタンスの持ち主だ。
  若き日の彼は前衛的な音楽思潮とも深く交わりつつ、まさに時代の先端をいく“ピアニスト=作曲家”だった。1960年の東京現代音楽祭が演奏家デビューの場となり、1963年には留学先の西ベルリンでクセナキスに師事。同時代作品の弾き手としてドイツやフランスで演奏活動を行ない、ロックフェラー財団の奨学金をて渡ったアメリカでも活動の場を広げる。欧米の著名オーケストラへの客演も多かった。1970年の大阪万博で、開催期間中に鉄鋼館「スペースシアター」の空間をたす音楽として、武満徹やクセナキスと共に高橋悠治の曲が用いられた事実からも、彼が受けていた評価の高さがうかがえよう。そして1970年代に入れば、ピアニトとして数々の名録音を世に送り出す。クセナキスやメシアンやジョン・ケージをはじめとする20世紀音楽の目覚ましい演奏はもちろん、独自の解釈で掘り下げたバッハは今なお語り草となっている。
  その彼が武満徹らとともに作曲家グループ「トランソニック」 を組織し、季刊誌の編集にあたったのが1974年から1976年。1978年には「水牛楽団」を結成して世界の“抵抗歌”のアレンジおよび演奏にあたり、月刊誌『水牛通信』を1987年まで発行した。言葉に対する関心の深さは、画家の富山妙子と取り組んだ映像と音楽による物語の共作活動や、指揮者の田中信昭と得た交流から生まれた合唱音楽、さらには日本の統楽器と声を用いた一連の作品からもうかがえるとおりだ。2008年から手がけている、ソプラノ歌手波多野睦美のために書き下ろし、自らがピアノを弾いて発表する歌曲も重要な連作として見逃せない。そんな創作活動のかたわらで上梓され数々の著作物でも、ユニークにして深い洞察性に富む音楽観が展開されている。
  近年の高橋悠治は、自らがたどった軌跡を観照しながら、音楽の本質を改めて問い直す姿勢を貫いているようにも映る。《20世紀音楽は、いままで獲得したものの上に、特殊な音色や奏法、複雑な動きを付け加えただけだった。「これもあれも」という消費の加速のはてには、音楽の死が待っている》とは、1999年に作曲したホルン無伴奏作品に寄せたコメントの一部だ。曲の書き手としても弾き手としても、21世紀の世に彼が聴衆と分かち合おうとする“音”の何たるかを、象徴的に物語る言葉ではないだろうか。(木幡一誠)

めぐる季節と散らし書き
こどもの音楽
MM-4010


余韻と手移り
MM-4035


 ことばのない詩集
MM-4059
高橋悠治ピアノ・リサイタル
MM-4088




アーティスト・プロフィール

高橋悠治 作曲・ピアノ

作曲・演奏とフリーの即興
1960年 草月アートセンター
1974-76年 季刊誌「トランソニック」
1978-85年 「水牛楽団」 「水牛通信」
著書
「高橋悠治/コレクション1970代」「音の静寂 静寂の音」「きっかけの音楽」「カフカノート」





ソロ・アルバム通算100枚をリリースしますます注目を集める、福田進一

 「リスナーに、常に特等席の響きを聴いてもらいたい」そんな思いを持って、レコーディングに並々ならぬ意欲を注いできた福田進一。
2020年4月にリリースしたアルバム「バロック・クロニクルズ」はソロ・アルバム通算100枚目を数えました。
 そのほか、フルートやオーボエといった他楽器との二重奏も意欲的で、常に新しいレパートリーを開拓。
実力派若手ギタリストを発掘しアルバムをリリースする「ディスカバリー・シリーズ」ではプロデューサーとして、また近年では、主人公モデルとなった映画「マチネの終わりに」での音楽監修など、そのフィールドはますます広がっています。
 ここでは、数多い福田進一のアルバムの中から、特に人気の高いアルバムをご紹介いたします。

通算100枚目!
「バロック・クロニクルズ」


1979年以来のコラボ
「音の旅」


10年のに渡るバッハ・シリーズ
「パストラーレ」
6種類の名器聴き比べ
「グレイテスト・ギターズ」


美しい名作が並ぶ
「我が懐かしのブエノスアイレス」



アーティスト・プロフィール

福田 進一 ギター

11才より故 斎藤達也(1942-2006)に師事。
1977年に渡欧、パリ・エコールノルマル音楽院にてアルベルト・ポンセに、シエナ・キジアナ音楽院にてオスカー・ギリアに師事した後、1981年パリ国際ギターコンクールでグランプリ優勝、さらに内外で輝かしい賞歴を重ねた。
世界数十カ国の主要都市でリサイタルを行い、バロックや19世紀ギター音楽の再発見から現代作品まで、その幅広いレパートリーと、ボーダーレスな音楽への姿勢は世界の音楽ファンを魅了している。
教育活動にも力を注ぎ、その門下から鈴木大介、村治佳織、大萩康司といったギター界の実力派スターたちを輩出。
それに続く新人たちにも強い影響を与えている。
現在は、世界各地の音楽大学でマスタークラスを開催、上海音楽院(中国)、大阪音楽大学、広島エリザベト音楽大学、アリカンテ大学(スペイン)、昭和音楽大学において客員教授を務めている。

平成19年度、日本の優れた音楽文化を世界に紹介した功績により、外務大臣表彰を受賞。
平成23年度芸術選奨・文部科学大臣賞をギタリストとして初めて受賞した。